標準労務費とは
標準労務費とは、改正建設業法にもとづき中央建設業審議会が作成・勧告した「労務費に関する基準」の中で、職種・工種ごとに示された「通常必要と認められる労務費」の目安のことです。正式には「労務費の基準値」と呼ばれ、2025年(令和7年)12月2日に勧告されました。この基準は公共工事・民間工事を問わず、発注者から技能者を雇用する建設業者までのすべての取引段階の請負契約が対象とされています。元請として見積りを受ける立場でも、下請として見積りを出す立場でも、「この金額は著しく低くないか」を判断する物差しになるため、規模にかかわらず中小建設会社が知っておきたい言葉です。
なぜ重要なのか
標準労務費が重要なのは、単なる参考値ではなく、建設業法の禁止規定と結びついているためです。基準を著しく下回る労務費での見積りや、そうした金額への変更依頼は法律で禁止され、違反した建設業者は国土交通大臣または都道府県知事による指導・監督の対象とされています。発注者側にも勧告・公表の仕組みが設けられました。
一方で、受注者にとっては価格交渉の根拠にもなります。これまで「相場だから」と押し切られがちだった労務費について、国が示した基準値を示しながら説明できるようになったことは、価格転嫁に悩む中小建設会社にとって追い風といえます。資材高や人手不足の中で利益が圧迫される構造については、建設業の倒産が上半期で過去最多水準──自社の価格転嫁と資金繰りは確認できていますかでも取り上げています。
対象となる範囲・条件
根拠となるのは、2024年(令和6年)6月14日に公布された「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年法律第49号)です。このうち労務費の基準に関わる規定は、2025年(令和7年)12月12日に施行されました。主な条文は次のとおりです。
| 条文 | 内容 | 対象 |
|---|---|---|
| 第34条第2項 | 中央建設業審議会が工期および労務費に関する基準を作成し、実施を勧告できる | 中央建設業審議会 |
| 第20条第1項 | 材料費・労務費・法定福利費などを記載した見積書を作成する努力義務 | 建設業者 |
| 第20条第2項・第6項 | 通常必要と認められる労務費等を著しく下回る見積り、およびそうした変更依頼の禁止 | 受注者・注文者 |
| 第19条の3 | 原価に満たない金額での請負契約の禁止(受注者側にも拡大) | 注文者・受注者 |
| 第19条の5 | 著しく短い工期での請負契約の禁止 | 注文者・受注者 |
基準値は「公共工事設計労務単価(円/人日)×適正な歩掛(人日/単位施工量)」という考え方で、施工量1単位あたりの労務費として示されます。国土交通省の説明会資料では、2025年12月時点で13職種分野・99工種の基準値が公表されたとされています。その後、2026年3月に11職種・35工種・作業が追加されたと報じられ、6月17日にも基準値が更新されています。自社の主力工種に基準値があるかどうかは、国土交通省の「労務費に関する基準ポータルサイト」で確認できます。
手続き・実務の流れ
標準労務費に対応するための実務は、おおむね次の4段階で整理できます。
1. 自社工種の基準値を確認する
ポータルサイトの職種分野検索やフリーワード検索で、自社が受注する工種の基準値と前提となる規格・仕様を確認します。
2. 労務費等を内訳明示した見積書を作る
材料費・労務費に加え、法定福利費(事業主負担分)、安全衛生経費、建退共掛金を区分して記載します。公共工事では入札金額内訳書での内訳明示が義務化されています。
3. 交渉と契約の記録を残す
国の運用方針では、見積書を契約締結後10年間保存することが示されています。当初の見積りと最終の契約額の差は、国土交通省の「建設Gメン」による調査で確認される場合があります。
4. 下請・技能者への支払いに反映する
確保した労務費が技能者の賃金に届くよう、下請契約や賃金の支払いに反映させます。第25条の27第2項では、技能者の能力の公正な評価にもとづく適正な賃金支払いなどが建設業者の努力義務とされています。
よくある誤解
誤解1:「公共工事だけの話」
公共工事向けのルールと思われがちですが、実際は民間工事も含め、元請・下請のすべての取引段階が対象とされています。
誤解2:「基準値より1円でも安ければ違法」
基準値は「著しく下回る」かどうかを判断するための目安とされており、施工条件や規格によって適正な労務費は変わります。一律に機械的な線引きをするものではないと整理されています。
誤解3:「元請に守らせるルールで、下請には関係ない」
改正で、受注者側が原価割れの金額で契約することや、著しく低い労務費で見積ることも禁止されました。「仕事を取るための安値受注」も対象になる点に注意が必要です。
経営者が確認したい3つのポイント
□ 自社の主力工種に基準値が設定されているか
担当者がポータルサイトで主力工種を検索し、基準値と前提となる規格・仕様を一覧にまとめ、経営者が自社の見積単価との差を把握しておくと、交渉方針を立てやすくなります。
□ 見積書の様式が労務費・法定福利費を区分しているか
現在使っている見積書のひな形を確認し、労務費・法定福利費・安全衛生経費・建退共掛金を区分記載できる様式になっているか、積算担当と一緒に点検しましょう。
□ 見積りと契約の記録を保存できているか
当初見積り、値引き交渉の経緯、最終契約書をひも付けて保存しているかを確認します。保存期間の目安は契約締結後10年です。経理・工務のどちらが管理するかも決めておきましょう。
よくある質問
Q. 標準労務費と公共工事設計労務単価は何が違いますか?
A. 公共工事設計労務単価とは、公共工事の積算に用いる、技能者1人が1日8時間働いた場合の賃金相当額のことです。標準労務費は、その単価に歩掛(施工量1単位あたりの必要人工)を掛け、「1トンあたり」「1㎡あたり」など施工量あたりの労務費として示したものです。
Q. 自社の工種に基準値がない場合はどうすればよいですか?
A. 基準値が未設定の工種でも、「通常必要と認められる労務費」を著しく下回る見積り等の禁止は及ぶと整理されています。設計労務単価と自社の実績歩掛から根拠を示せるようにしておくことが考えられます。基準値は順次追加されているため、定期的な確認が有効です。
Q. 違反するとどうなりますか?
A. 建設業者は建設業法第28条にもとづく指導・監督処分の対象とされ、一定規模以上の工事の発注者には勧告・公表の仕組みがあります。許可行政庁の処分歴は経審や入札参加にも影響しうるため、軽く考えないことが大切です。
Q. 小規模な会社でも労務費の内訳を書いた見積書が必要ですか?
A. 第20条第1項の見積書の作成は、会社規模を問わず建設業者の努力義務とされています。義務違反として直ちに処分されるものではありませんが、労務費を確保する交渉材料になるため、様式を整えておくことが望まれます。
まとめ
標準労務費は、改正建設業法で導入された「労務費の基準値」で、著しく低い労務費での見積りや契約を防ぐ物差しです。民間工事も含むすべての取引段階が対象で、受注者側の安値受注も禁止されています。一方で、適正な価格を交渉する根拠にもなります。自社の工種の基準値と見積書の様式、記録の保存状況を、一度確認してみてはいかがでしょうか。建設業法の関連制度は改正建設業法の実務対応についての記事や、経営事項審査(経審)の解説もあわせてご覧ください。
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出典
- 国土交通省「建設業法・入契法改正(令和6年法律第49号)について」
- 国土交通省「労務費に関する基準」
- 国土交通省「改正建設業法『令和7年12月施行分』説明会」資料
- 国土交通省「労務費に関する基準ポータルサイト」(2026年6月17日基準値更新、6月29日運用方針改正)
- 中央建設業審議会「労務費に関する基準の作成及び実施の勧告について」(国土交通省中建審第1号、2025年12月2日)
- 業界ニュース報道「国交省/標準労務費の基準値追加/11職種35工種・作業で設定」(2026年3月30日)
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