
はじめに
建設現場の事故というと作業員のけがを思い浮かべますが、通行人や近隣の建物に被害が及ぶ事故も繰り返し起きています。国土交通省はこうした被害を「公衆災害」と呼び、防止の基準を告示として定めています。この記事では、建設工事公衆災害防止対策要綱に示された仮囲いや歩行者用通路の数値基準を整理し、中小建設会社の経営者が自社の現場で確認したい点をまとめます。
公衆災害とは何か
建設工事公衆災害とは、建設工事の施工に当たって、当該工事の関係者以外の第三者(公衆)に対する生命、身体及び財産に関する危害並びに迷惑のことです。国土交通省が要綱の中で用いている定義であり、現場で働く人自身の被災を対象とする労働災害とは区別されます。足場から落ちた資材が通行人に当たった、重機が隣家の外壁を損傷した、掘削に伴う地盤沈下で近隣の建物に変状が生じた──こうした被害はいずれも公衆災害です。国土交通省は平成5年に要綱を策定し、令和元年9月2日に策定以来はじめての全面的な見直しを行いました。要綱は土木工事編と建築工事編の2編で構成され、土木工事編は同日、国土交通省告示第496号として公布・施行されています。
【用語解説】仮囲い・落下物防護とは
仮囲いとは、工事期間中に作業場の周囲へ設け、公衆が誤って現場に立ち入ることを防ぐための囲いのことです。要綱では、地上4メートル以上の高さを有する構造物を建設する場合、地盤面から高さ1.8メートル以上の仮囲いを設けることとされています。
落下物による危害の防止とは、高所からの資材や工具の落下が現場の外にいる人に及ばないよう防護措置を講じることです。要綱では、地上4メートル以上の場所で作業する場合に、その場所から俯角75度以上のところに一般の交通の用に供されている場所があるときは、道路管理者と協議したうえで十分な強度を有する板材等で覆わなければならないとされています。
関連する法令・制度
要綱には、現場で判断に迷いやすい部分に具体的な数値が示されています。歩行者用通路は、幅0.90メートル以上(高齢者や車椅子使用者等の通行が想定されない場合は0.75メートル以上)、有効高さ2.1メートル以上とされ、歩行者の多い箇所では幅1.5メートル以上が求められます。一般交通を制限して1車線とする場合の車道幅員は3メートル以上、2車線とする場合は5.5メートル以上が標準です。また、道路上で杭や矢板を打設する際は、埋設物が予想される位置を深さ2メートル程度まで試掘することとされています(令和元年9月2日国土交通省告示第496号・土木工事編)。
第三者に損害を与えた場合の賠償責任は民法に基づいて判断され、不法行為責任を定める第709条と、被用者が事業の執行について加えた損害に関する使用者責任を定める第715条が実務上の出発点になります。
中小建設会社への影響
第一に、工事が止まります。要綱は、公衆災害が発生した場合には施工を中止したうえで直ちに被害状況を把握し、関係機関へ連絡するとともに応急措置と二次災害の防止措置を行うことを定めています。工期が止まっても人件費や機械のリース料は動き続けるため、資金繰りへの影響は小さくありません。
第二に、金額の見通しが立てにくいという問題があります。通行人の負傷や隣接建物の損傷は労災保険の枠外であり、示談交渉や訴訟が長期化することもあります。第三に、信用面への影響です。発注者や元請から見れば、近隣とのトラブルを起こした会社は次の指名で不利になり得ます。掘削工事のように近隣被害へ直結しやすい作業についてはこちらの記事、リスクの洗い出し方は法人リスクマネジメントのページもご覧ください。
経営者が確認したい3つのポイント
□ 仮囲いと歩行者用通路の寸法を、現場ごとに実測して記録しているか
仮囲い1.8メートル以上、歩行者用通路の幅0.90メートル以上・有効高さ2.1メートル以上という数値を、現場代理人が実際に測り、日付入りの写真とあわせて残しているかを確認します。
□ 荒天時の作業中止基準を、文書で定めているか
要綱は、工事着手前の施工計画立案時に強風・豪雨・豪雪時の作業中止基準を定め、中止時の仮設構造物・建設機械・資材の措置まで決めておくことを求めています。その場の「現場判断」で運用していないか、施工計画書の該当ページを開いて確認します。
□ 近隣への事前周知と緊急連絡体制を整えているか
要綱は、着工前に工事概要と公衆災害防止の取組内容を付近の居住者等へ周知すること、警察・消防・病院・電力などの連絡先をあらかじめ明確化しておくことを定めています。現場事務所の連絡先一覧が最新のものかを確かめてください。
よくある質問
Q. 公衆災害は労働災害と何が違うのですか
A. 被害を受ける人が異なります。労働災害は現場で働く人自身の被災を指し、労災保険の対象です。公衆災害は工事関係者以外の第三者の生命・身体・財産への危害と迷惑を指すため労災保険の枠外となり、民事上の損害賠償の問題として扱われるのが一般的です。
Q. この要綱は民間工事にも関係しますか
A. 要綱は「公衆に係わる区域で施工する工事」に適用するとされており、公共工事に限る旨の定めは置かれていません。実務上も、施工計画の水準や近隣説明の進め方を判断する目安として参照されています。個別の適用関係は発注者との契約条件とあわせてご確認ください。
Q. 第三者への賠償リスクへの備えを見直すとき、何から確認すればよいですか
A. まず自社の工事内容と、起こり得る被害の場面を書き出すことが出発点です。そのうえで、既存の契約について対象となる作業の範囲、支払限度額、免責事由といった制限条件を確認します。補償の範囲や条件は契約ごとに異なるため、詳細は各保険会社の重要事項説明書および約款をご確認ください。一般的な考え方はよくある質問でも触れています。
まとめ
公衆災害の防止は、要綱に並ぶ数値をひとつずつ現場で確かめる積み重ねです。仮囲いの高さ、歩行者用通路の幅、荒天時の中止基準は、いずれも施工計画書の中で見落とされやすい項目です。自社の直近の現場ではどうだったか、確認してみてはいかがでしょうか。
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出典
- 国土交通省「建設工事公衆災害防止対策要綱の改正について」(令和元年9月2日 報道発表)
- 国土交通省告示第496号「建設工事公衆災害防止対策要綱(土木工事編)」(令和元年9月2日)
- 国土交通省「建設工事公衆災害防止対策要綱の見直しに関する検討会」(要綱・解説の掲載ページ)
本記事は建設業に関わる一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の保険会社または保険商品の推奨・勧誘を目的とするものではありません。制度・法令の内容は掲載時点のものです。当社の勧誘方針はこちらをご覧ください。
